こんにちは、ふゆひこです。東京駅行き高速バスの中からお送りしております。
明日から横浜で「アンティシペーションダイアローグ」の研修(2日間)に出ます。
「アンティシペーションダイアローグ」は「オープンダイアローグ」と同様に医療福祉の現場に「対話」を持ち込む方法の一つです。簡単に言うと、いわゆる「ケア会議」を対話的に行う方法です。
対話について学び、実践することはとても楽しいです。私にとって、ほとんど趣味や生きがいになっています。
とはいえ、「対話こそ我が人生(上手くはできないけど)!」ということに正直に生きようと決めたのは今年に入ってからです。
対話的に生きるということを私の人生のプロジェクトと位置づけ、「minä」という名前をつけました。
(関連記事:minäとは)
さらに、その一環として、妻にパートナーになってもらい「相談室おうち」というプロジェクトも始めました。
「相談室おうち」は「今すぐオープンダイアローグ(っぽい方法で)仕事をしたい!」という私の願いを形にしたものです。
もちろん「オープンダイアローグ」をそのまま再現することはできませんが、可能な限り公式ガイドラインに則って対話ミーティングを行っています。
私たちはソーシャルワーカー(精神保健福祉士)として「相談支援センター」や「生活支援センター」でキャリアを積んできました。その強み(フットワーク)を活かして、単に「対話」をするだけでなく、相談室の外でも、「対話」の内容にもとづいて様々なお手伝いをするようにしています。
今年(2018年)の8月に最初の「お客さま」をお迎えした「相談室おうち」。
まだまだ「課外活動」の域を出ませんが、ここまでの4ヶ月を振り返り、やってみた感想や私(たち)に起きた変化を書いてみたいと思います。
その前に「対話」とは
私が「対話」というときは「オープンダイアローグ」でいうそれを念頭に置いています。
オープンダイアローグはフィンランドのラップランド地方の精神科で実践されている、「対話による治療」です。
複数のスタッフが、一定の原則と方法にもとづいて、ご相談者やご家族と「対話ミーティング」を継続します。すると、従来の治療や支援の方法で打開できなかった状況に、新たな展開がもたらされます。
一見「みんなでお話するだけ」なのですが、その基盤には心理学の家族療法があり、さらには哲学の要素も取り入れられています。「オープンダイアローグ」によって入院や投薬治療の必要を大幅に減らせることも、科学的に証明されています。
私たちは相談員ですので、「相談室おうち」で「治療」をするわけではありません。
私たちは「オープンダイアローグ」の中の「対話」のエッセンスを、ソーシャルワークの「相談」の部分に取り入れ、置き換えたいと思っています。
「密室の冷たい相談室」から「我が家のリビング」へ。
「一対一の相談」から「複数スタッフによるオープンな対話ミーティング」へ。
そして「対話」での合意にもとづいた支援を。
私たち(相談員)の変化
仕事が楽しい!
私たちに起きた最大の変化とは、とにかく「仕事が楽しい!」と感じられるようになったことです。
もちろん、これまでのキャリアの中にも楽しさや喜びはたくさんありました。
しかし、それらは常に、いくつもの「葛藤」と隣り合わせでした。
(関連記事:サイレントプロシューマ(仮)の苦労)
「対話」にもとづいて相談支援を行うことは、私(たち)を葛藤から解放してくれ、後には「楽しさ」や「喜び」だけが残ったのです。
一人で相談に臨まねばならないプレッシャーから解放された
従来の「相談支援」では、相談員は一人で相談に臨むことが多いです。
そのため、相談員はご相談者やご家族からの期待や不安、ときには世の中への怒りまでもを、一身に浴びざるを得ません。
これは、仕事とはいえ相当きついものです。
また、ご相談者側は複数なのに相談員は一人ということもザラです(狭い相談室で…)。この「数のプレッシャー」もかなりのストレスになります。
その上、相談員自身の不安やショックを正直に打ち明けられる場もなかなかありません。
このような状況に置かれた相談員が、自分の身を守ろうとして頑なになったり、問題をご相談者の病気のせいにしたりして、信頼関係が悪くなるということもあります(私にも苦い過去が多々あります)。
(関連記事:その「良かれ」、ほんとは誰のため?)
複数スタッフがチームを組んで臨む(オープン)ダイアローグでは、この懸念が払拭されています。
私たちは安心して相談(対話ミーティング)に臨むことができるのを感じています。
「相談者のいないところでやらなければならないこと」がなくなった
オープンダイアローグでは「その場にいない人のことについて、いかなる決定もしない」ことを原則としています。
私はこの原則が大好きです。
というのは、従来の相談支援では、相談面接の前後に関係者だけで「打ち合わせ」をして、いろいろなことを決めることが日常的にあったからです。
ご本人のいない「ケア会議」など日常茶飯事です。
私はアダルトチルドレンの当事者でもありますので、そういった専門職の「習慣」が本当は嫌でした。
また、一人で相談を担当していたときは、勤務時間の後も「どうしようこうしよう」と頭を悩ませて夜も眠れないことがありましたが、今はそんなことからも解放されています。
なぜなら、そのような悩みも対話の場でオープンに話せばいいのですから(ダイアローグには「リフレクティング」といって、相談員チームがご相談者の目の前で「ケア会議」をする時間が設けられています)。
相談者を分析や評価しなくてもよくなった
従来の相談支援では、ご相談者の状況を「アセスメント」しなくてはなりませんでした。
アセスメントとは、専門家視点から分析・評価することです。
ダイアローグでも、求められれば専門的な意見を述べることはあるのですが、それが目的ではありません。
対話の目的は、対話を膨らませ続けることです。話を聴くのはそのためです。
他方で、従来の相談支援では「専門的に」アセスメントして「専門的に」支援することが目的です。
ご相談者の話を聞いていても、「分析のための情報聴取」になってしまいます。
かつては私も、「私の知りたいこと」を相手に語ってもらうテクニックばかり磨いていました。
ご本人が話したいことがもっと他にあり、解決のためのヒントもその部分に隠れているかもしれないにもかかわらず。
時間にゆとりが、空間に温かさが生まれた
従来の相談には時間の制約がありました。
「専門職」としての私は、初回のご相談者だと長くても50分前後で「私の知りたいこと」をほぼ全て聴取できるようトレーニングされました。そうしないと仕事が回らないためです。
独立した現在は、毎回90分から150分ほどかけて、じっくりとお話を聴くようにしています(回を重ねると、段々と短くなってはいきますが)。
相談の場所も、従来は「障害者相談支援センター」の「相談室」です。
そこはたいてい古いコンクリート造の建物で、事務メーカーの机と椅子が置いてあります。絵に描いたような「相談室」です(「取調べ室みたい」と言われていた部屋もありました)。
そのような場所では、ご相談者は「障害者」にならざるを得ません。
病院に行くと「患者」役割を与えられ、そのように振る舞ってしまうのと同じです。
「相談室おうち」を開くにあたり、私たちがモデルにしたのは「マギーズセンター」でした。
「マギーズセンター」は、がんになった人が「患者」でなく「わたし」として立ち寄れる場所です。イギリスが発祥で、東京にも1ヶ所あります。
私は「マギーズセンター」を妻から教えてもらい、一緒に見学に行き、「このような場所でご相談者の話を聞いてみたい」と思うようになりました。
今のところ、私たちには自前の物件を構えるお金がないので自宅=「おうち」を相談室として使っています。
これはせめて「我が家のお客様」としてご相談者をお迎えするようにしたかったからでもあります。
ご相談者の変化:明るい雰囲気に終始する
私たち相談員にとっての良い変化を書いてきましたが、ダイアローグはご相談者にも良い変化をもたらしていると感じられます。
「相談室おうち」に来ていただいているご相談者のほとんどは、既存の相談支援サービスにうまく繋がらなかった方です。
そのようなご相談者の傾向として、支援者から無条件に傾聴された経験がほとんどないということが挙げられます。
安心安全に心置きなく語り、それが肯定的に受け止められたと分かったとき、人はこれまでとは異なる感覚を持つようです。
対話が終わった時の「後味」は(今のところ)毎度よいもので、「おうち」は明るい雰囲気に包まれます。
まとめ
「おうち」での「対話」は、相談支援というものの現場を本当に明るくしてくれました。
奇妙な話ですが、つらかったことや困難なことの話をしているときでも、そこには、従来あったような深刻さはありません。
もちろん、それは私たちが急性期の精神病の方(「オープンダイアローグ」の本来の対象)をお迎えしているわけではないからかもしれません。
しかし、私はここまでの4ヶ月間で、ダイアローグが相談支援の場にポジティブなインパクトをもたらしてくれることに対して、確信の度を深めました。
また、働くことが楽しくて仕方がありません。
対話ミーティングに臨むときの私のメンタルヘルスは、相談員としてのキャリアを通して最高の状態です。
残念なのは、まだご相談者が少なく、「相談室おうち」をフルタイムで開けないことです。
宣伝になってしまいますが、月間でまだ3~5枠ほど空きがありますので、ぜひ「おうち」へいらしてください!
関連記事:中日新聞さんに掲載していただきました。
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素敵な活動ですね。
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