2018年11月19日9 分

効果的な回復のための5ステップ

最終更新: 2020年5月26日

夏至の日、ロンドンのハイドパークにて(2018年)

こんにちは、ふゆひこです。今回は「リカバリー(回復)の5つのステップ」について書いてみます。

これは私の個人的な体験を整理したものです。とはいえ、私のようなアダルトチルドレン(AC)や、一定のタイプの「ひきこもり」の方には当てはまるのではないかと思います。

うつ病の方や「生きづらさ」を抱える人全般のリカバリーにも、何かヒントになることが含まれているかもしれません。

「リカバリーの5つのステップ」とは

精神保健福祉の世界ではよく「リカバリー」という言葉を使います。

私は「リカバリー」という言葉を、「生きづらさからの回復」「人生を自分の手に取り戻す」のような意味で使っています。

「リカバリー」は十人十色です。みんなちがって、みんないい。すべての人に、かけがえのない人生の物語があります。

とはいうものの、リカバリーには基本的な「手順」や「段階」があるような気もします。

「あってほしい」と言ったほうが精確かもしれません。というのは、私はなるべく速くリカバリーしたいからです。

それは、これまでの人生がつらかった分、失われた楽しさや幸せを取り戻したいという気持ちが強いからかもしれません。

なるべく速く、効率的に回復したい。

そのために、巷にあふれる「元気になるための智慧や方法」の「取り組む順番」などを整理して、効果的に活用することが重要と考えてきました。

私の考える「リカバリーの5つのステップ」とは以下のようなものです。

  1. 「束の間の冷静さ」を取り戻す

  2. トラウマを治療する

  3. 自分の大切な価値観に気付く

  4. 暮らしを再設計する

  5. 苦労しながら順調に暮らす

以下、概説していきますね。


 
1.「束の間の冷静さ」を取り戻す

最初にやるべきなのは、「束の間の冷静さ」を取り戻すことです。

私のメンタル状態が最悪だった時期を振り返ってみます。

怒り、眠れないこと、飲酒、他人を責めること、承認欲求、燃え尽き。そのようなネガティブなものたちに私はすっかり支配され、コントロールされていました。そして、その自覚がありませんでした。

このコントロールから短時間でも脱することが、リカバリーの第一歩だと思います。

一瞬でも冷静さを取り戻し、それを原資に、冷静でいられる時間を少しずつ増やします。そうして稼いだ時間を使って、今後のリカバリーについて算段するのです。

私の場合は、睡眠の質と量を確保することが最も重要で、効果的でした。それから、お酒をやめること。

とはいえ、この段階では「根性」「心がけ」「意志の力」などではどうにもなりません。

カウンセリングなどの心理学的手法(トーク・セラピー)やライフハックでどうにかなる範囲も超えています。

この段階で必要なのは、端的に「医療」です。

医療を敬遠せず有効に活用しましょう。

(関連記事:回復を早めてくれたものたち① 精神科のお薬

(関連記事:回復を早めてくれたものたち② お酒を止める

2.トラウマを治療する

医療(入院や服薬など)を活用して「束の間の冷静さ」を取り戻したら、それを使って次にやるべきことは「トラウマの治療」です。

ACなど「生きづらさ」を抱えている人は、トラウマ(心的外傷)を抱えていることが多いです。

これを抱えたままだと、悲しいかな「私たちの意志の力 < 生きづらさ」という状況が続きます。

なぜなら、トラウマ由来のフラッシュバックが脳や身体のレベルで襲ってくるからです。

しかし、トラウマ治療をすることによって、この関係を逆転させ「私たちの意志の力 ≧ 生きづらさ」とすることができます。

「トラウマ」というと「何を大げさな」と思われる方がいるかもしれません。災害や犯罪被害にあったわけでもないのに、と。

これは「心理的虐待」が過小評価されがちということを意味します。

「生きづらさ」を感じる人たちの多くは「心理的虐待」によるトラウマを抱えているのではないかと、私は推測しています。

私の体験では、心理的虐待のダメージは「ボディーブロー」のようにジワジワ積み重なっていきます。たとえ、それらのエピソードの一つ一つが小さかったとしても。

そして、そのダメージは「こころ」の無意識の部分に堆積し、私たちの不適応的な行動の原因となります(低い自己肯定感、不安定な感情、共依存などなど・・・)。

あるいは、過去と同じ間違いを繰り返す原因になります(再飲酒や離転職、離婚など・・・)。

かように、トラウマは「生きづらさ」の湧き出る「源泉」です。

これを治療(じゅうぶんに弱体化)してあげることが、今後のリカバリー生活のために重要です。

トラウマはカウンセリングや精神科の診察(精神療法)等の「トーク・セラピー」ではなかなか消えません(上手くいっても数年から数十年かかるのではないでしょうか)。

もちろん、精神科のお薬でもなくなりません(噴出を抑えることはできます)。

「認知行動療法」でも「上澄み」(自動思考)が処理されるだけで、生きづらさの「源泉」(トラウマエピソードによって形成された、不適応的な信念)までは届きません。

よって、もう少しハードで「深い」方法を活用することが必要です。

個人的にオススメなのが「EMDR」や「スキーマ療法」です。科学的なエビデンスがあるためです。

ただし、現状では、トラウマ治療にまで踏み込んでくれる医療機関を身の回りに見つけることは容易ではありません。

また、民間の心理相談室で上記のセッションを受けようとすると保険が効かず、費用がかさむのも難点です。

とはいえ、トラウマを処理せぬまま暮らしていると、そこから湧き出た「不適応的な自動思考」や「歪んだ認知」にもとづいた判断や選択を繰り返してしまうため、トラブルが絶えません。人生=トラブル処理になってしまいます。

「自動思考」や「歪んだ認知」への対処としてポピュラーなのが「認知行動療法」ですが、その都度の対処となるため、気ぜわしくて、主観的にはQOLが上がりませんでした。

「生きづらさ」を抱える人に、何とかしてトラウマ治療を受けてほしい。トラウマ治療がアクセスしやすくなってほしい。それが私の願いです。

(関連記事:回復を速めてくれたものたち⑩ EMDR

(関連記事:回復を速めてくれたものたち⑪ スキーマ療法

(関連記事:回復にとっての「ラスボス」

(関連記事:身体からのトラウマケア:「TRE」体験記

3.自分の大切な価値観に気付く

今年になってようやく、私もこのことを体感しました。

「したいことを見つけて、達成目標を設定して、実現に取り組もう」みたいなことは、よく言われますよね(福祉サービスの「サービス等利用計画」や「個別支援計画」にも「目標」を書く欄があります)。

しかし、実は、その前にするべきことがあったのです。

それは、自分が本当に大切にしている「価値」を自覚するということです。

そもそも何故それをしたいのか」「何故それが目標になり得るのか」という、ひとつ高い視点から考えることが重要です。

というのは、ふだん私たちが「あれがしたい」「これが目標」と言っていることの中には、「それが普通だから」「あの人がそう言っていたから」という理由からであるものが、かなりの割合で混じっているからです。

そのような他人基準の「目標」を設定してしまうと、心からコミットできず、いつまでも行動できないということがあります。

「したいと言いつつしていないこと」というのは、「本当はしたくないこと」であるか「したいけど怖くてできない」かの、どちらかです。

(関連記事:苦しさの原因は「普通」という概念

自分が本当に大切にしている「価値」が分かると、そこから、本当にコミットできる「目標」「ゴール」が引き出されてきます。

この「価値」は人生の判断基準と言うこともできます。

細かな話になりますが、「どんな服を着るか」「何をいつ食べるか」「どんな物に囲まれて暮らしたいか」といったことにも悩まなくなります。

「自分の本当の価値観」に気付く方法としては「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」がオススメです。

他には「コーチング」も良いかもしれません(こちらは費用がネックです)。

「ACT」については、以下に紹介するワークブックに自分で取り組むことができます。

個人的には「自分の葬式をイメージして弔事を書くワーク」が印象的でした。

涙をボロボロ流しながら「竹内冬彦、ここに眠る。家族を愛し、仲良く暮らした。」と書きました。

私にとっていちばん大切だったのは、仕事でも社会正義でもなく、家族だったのです(早く気が付きたかった・・・)。

あなたはどんな人で、どんな風に生きて生涯を終えましたか?

(関連記事:嫌いな自分なんて存在しなかったという話

4.暮らしを再設計する

自分の大切な価値観を自覚するようになると、どんな選択や行動をすればいいかがハッキリします。そうなれば、いよいよ人生や生活を再設計する段階です。実際に「計画書」「アクションプラン」を作ってみるのもよいでしょう(ACTでもそうします)。

この段階になると、活用可能な資源がたくさんあります。「WRAP」「ケアマネジメント」などなど・・・。

精神科や障害福祉サービスを利用中の方は、担当の相談員さんに相談してみましょう(たいてい無料です)。

5.苦労しながら順調に暮らす

このブログでは何度も書いたことですが、「生きづらさ」というものはゼロにはなりません。私たちは「苦労」し続けます。

(関連記事:回復を早めてくれたものたち⑧ 『その後の不自由』という本

しかし、それが当たり前なのです。

当たり前に苦労がある、ということは私たちの人生が「順調」フェーズに入った証拠です。喜んでいいと思います。

この段階でも多種多様な方法や資源が活用可能です。

カウンセリングや認知行動療法、当事者研究や自助グループなど、あなたに合った方法やサポートを見つけてください。

(関連記事:回復を速めてくれたものたち⑨ 自助グループ

おわりに

ここまで、私の考える「リカバリーの5つのステップ」について書きました。

医療機関や行政の相談支援センター等で働いていたとき、私は「いつまでたっても元気にならない当事者」をたくさん見てきました。

彼らの気持ちはずっと晴れないままであるようでした。

同じ「過ち」や「同じ相談」を何年も何年も繰り返していました。

十数年間も病院やデイケアに通っているのに。

主だった症状はほとんど無くなっているのに。

仕事に行ってさえいるのに。

人がなかなか「リカバらない」ときは、いちどリカバリーの「基本」に戻って考えてみるといいと、私は思っています。

「5つのステップ」に照らして考えてみましょう。

トラウマを薬や「意志の力」だけで何とかしようとしていないか。

「お薬を飲まない縛り」でリカバリーしようとしていないか。

本当に大切なものを自覚せぬまま「社会復帰」しようとしていないか。

それから、最も大切なことを忘れていないか。

リカバリーには以下の要素がそろうことが重要と言われています。

  • 「どうにかなる」という希望の感覚

  • 主体性(責任)

  • 学び

  • 助けてくれる人がいること

  • 権利を守ること

  • 役割があること

私たちのリカバリーライフには、これらがあるでしょうか?ときどき振り返ってみるといいかもしれません。

関連記事:回復を加速してくれたものたち22選

次の記事を読む:リカバリーは修理に似ている

前の記事を読む:回復を速めてくれたものたち⑩ EMDR

    3041
    1