こんにちは、ふゆひこです。今日も読んでいただいてありがとうございます。我が家のリビングにもついにエアコンがつきました。これで自宅内で熱中症にならずに済みそうです。うれしいです。
そんな快適な「おうち」で、今回は 『子は親を救うために「心の病」になる』という本を読みました。
おそらく有名な本だとは思うのですが私は存じ上げず、少し前にアマゾンで見かけて「す、すごいタイトルだな・・・」と気になっておりました。
ひとことで言うと、読んでよかったです。
親もまた「生きづらさ」を抱えている?
著者は精神科医。日本で多分いちばん有名な精神科病院に勤務ののち、開業されたとのこと。
本書の中で、著者は「ひきこもり」や摂食障害、「うつ」などをきっかけに来院された患者さんたちの中に、ある共通の法則のようなものを見出しています。
それは、子どもが思春期に「心の病」になった場合、それは親もまた「生きづらさ」を抱えていることを教えてくれているのだ、ということです。
(ここでいう「心の病」とは、広い意味での不適応的な状態を指しています。)
これは、個人的には、かなり頷ける指摘です。
ただし、専門職としては、慎重に、たくさんの「但し書き」をつけねばならないとも思います(著者もそうされています)。
「ひきこもり」に関して言うと、「親を救うために『心の病』になる」と表現できそうなのは、国の支援ガイドラインに示される3類型のうち、一つのみではないかと思われます。
「ひきこもり」の3類型とは、ざっくり言うと以下のようなものです。
①統合失調症などの精神病がもともとの原因でひきこもっている人たち
②いわゆる自閉症など発達障害があるために2次的にひきこもっている人たち
③病気や障害がなく、家族との間に心理的葛藤を抱えてひきこもっている人たち
本書が当てはまるのは、このうち③の人たちのみではないかと思われます。
(また余談ですが、長期高齢化している「ひきこもり」の方には、初期のころにこの①~③の鑑別やアセスメントが適切になされなかったがために必要な支援を受けられなかった人たちが一定数いるのではないかと、個人的には思います。
病気や障害が見落とされ、①や②の層にも③の人たち向けの支援ばかりがなされてきた歴史がありそう、というのが私見です。
それは、ひきこもり状態にある人やそのご家族の相談を最初にキャッチする「ひきこもり専門」の支援者が、必ずしも精神科医療や障害福祉の実務経験者とは限らないという現状があるからだろうと思われます。)
話を戻しますと、この本に書いてあることは、説得力がある一方で多くの但し書きを要するため、一般化して感想を述べることには慎重にならなければならないというのが、私の抱いた感想です。
と同時に、一人の当事者として自分の人生に当てはめて考えると大変おもしろく、たくさんの発見がありました。
目からウロコ、ひざをたたく、という感じです(自分のことは自分ではわからないものですね)。
私の「心の病」が伝えたかったこと
私がかかった(広い意味での、あるいは喩えとしての)「心の病」とは、自分を傷つけることとか、ひきこもり、燃え尽き症候群などです。あるいは、自分のことをアダルトチルドレンだと感じることとか。
それが本書の言うように「親を救う」ためだったとすると、私の親の生きづらさとは何だったのでしょうか。
本書によれば、子どもは基本的に親のことが大好きです。児童期までは「親の世界が子の世界」であり、子は親の世界をコピーして、自分にインストールします。
このとき、親の生き方に何か矛盾や無理があったとしても、子は、そのまま、まるっとコピーしてしまいます。
そして、親から引き写した生き方に含まれる「無理」や「しんどさ」、「矛盾」が、思春期になって「心の病」として表現されるとのことです。
たとえば、私は両親との暮らしから、以下のようなメッセージを受け取っていました。
父親から:世界は常に苦しく厳しい戦場であり、そこで勝ち続けなければならない。戦場を勝ち抜き続けるというレールの上を走り続けること、それがお前の人生である。それ以外の世界や人生は甘えであり、嘘であり、三流で負け犬であり、ダメである。
母親から:お前をこんなに愛している私はとっても不幸なんだよ。私は愛するお前のために自分を後回しにして人生を犠牲にしているよ。お前の父親は私を幸せにしてくれないよ。お前を愛しているからお前には幸せになってほしいけど、お前が選んだその幸せは私を幸せにはしてくれないから却下だよ。
これらは、もちろん両親から直接に明言されたものばかりではありません。両親と一緒に暮らした子ども時代に、親の言動から推測して子どもの私が導き出した、親の世界観です。
振り返るに、私は最近まで、両親から受け取ったこれらの世界観(メッセージ)に忠実に生きてきました(私は自分自身まだ思春期にあると思います)。その生き方は、まさにアダルトチルドレン的な生き方でした。
常に苦しい戦場を探して、わざわざ自分から首を突っ込みました。頭の中で勝手に周囲と競争しては「一番」や「完璧」であることを追求し、そのことを周囲に認めさせようとしました。そして、その要求に応えてもらえないことに怒りました。
あるいは、「支援の必要な人」「自力で幸せになれない人」を探し求め、困難な相談があればあるほど自分が必要とされている感じを覚えました。相手に対して「あなたは自力では幸せになれない、私が必要だ」というメッセージを言外に送ることさえありました。
つまり私は、私の考える父親の世界観(世界は戦場)に従って生きることで父親に認められようとし、同じく私の解釈した母親の世界観(私は母親を幸せにしなければならない)に従って生きることで、母親を救おうとしたわけです。
そして子どもの私はつぶれました。本書の言うとおり、「心の病」になったのです。
私はいま、自分の「心の病」のメッセージを解読してみようと思います。
「お父さん、その生き方だとつらいよね。お父さんも適当に楽になっていいんだよ。」
「お母さん、お母さんも自分で自分を幸せにできるよ。」
そんなようなことを、私は「心の病」になったことを通じて、愛する親に(間接的に)伝えたかったんだろうと思います。
親は本当に生きづらかったのか
幼いころを思い出すと、確かに、父親は完璧主義かつ厳格で、私は褒められた記憶がほとんどありません。その反面、父は小さな菜園の手入れを楽しみ、フィンランド式の生活に憧れ、囲碁や将棋を好み、春には山菜を採り山わさびを掘っていました。明るい子どものようなキャラクターも持っていたように思います。
母親もまた、保育士の資格を取ったり、英会話を勉強したり、絵本の読み聞かせ活動などをしていました。自分の関心や「やりたいこと」に、意外と忠実だったわけです。
いま思うと、両親は案外じょうずに自分たちの「生きづらい世界観」をサボって、息抜きをしていたのではないでしょうか。
子どもの私だけが真面目にその「生きづらい世界観」にフルタイムで従い続け、疲れ果てて「心の病」になってしまったのかもしれません。
「幸せになる」という反抗
2018年のいま、私はようやく両親の世界観を離れて、その逆を実践しています。
つまり、「戦場でないところ」で「完璧でない」暮らしを「適当に楽しみ」、他人のでなく「自分の幸せ」を追求しているところです。
言ってみれば、私はようやく健康的な「反抗期」を迎えることができたのかもしれません。
親から発信されていると感じていたメッセージ(「楽になってはいけない」「お前だけ幸せになるな」)に対して、以前の私は限界まで従ったあげく、力尽きて、自分が生きていることそのものを否定する(うつ状態になったり、生きるのをやめようとしたり)という形の反抗(=「心の病」)をしていました。
それは「反抗」とすら言えないものだったかも知れません。なぜなら自分を否定し不幸にすることは、「親の世界観」と同じだからです。
(そして、自分を否定しきれなかった後は、反射的・強迫的に「親の世界観」に復帰し、燃え尽きを繰り返していました。)
いま、私の「反抗」は「楽になること」「自分が幸せになること」、つまりリカバリー(回復すること)それ自体です。
盗んだバイクで走り出したり隠れてタバコを吸ったりみたいな「反抗」っぽくなくて、まだいかにも優等生的なのがちょっとカッコ悪く感じますが、以前の自分との違いを感じ始めているところです。
とりとめがなくなりましたが、そんなようなことを考えさせてくれた読書体験でした。
「心の病」にならずに済むには
本書の論理にしたがうならば、お子さんが広い意味で「心の病」になったとき、親御さんは「自分の生きづらさ解消に取り組むチャンス」と捉えると、話が早いのではないかと思います。
なぜなら、お子さんの「心の病」を見かけ上「治す」ことに時間やエネルギーを費やさずに済むからです。
また、子ども(いわゆる当事者)の側も、わざわざ「心の病」という表現の形をとらずに、できれば言葉で「親に幸せになってほしい」という「愛」を伝えられたらいいなと思います。
「心の病」になると、心や体が傷ついたり、貴重な青春時代を別のことに使わなくてはならなくなったりするからです。また、社会的な不利益が尾を引くことも多いです。
とはいえ、親子が当人どうしで率直に話をすることは難しいですから、ぜひオープンダイアローグを活用してほしいなと思います。
フィンランドで生まれた、対話による関係調整法・オープンダイアローグ。その提供者である私と妻自身も、自分たち夫婦の「かぞくかいぎ」として、プロを入れて月1回のダイアローグを続けています。
オープンダイアローグについては、以下の記事をお読みください。
病院・家庭・地域をつなぐ。〈相談室けいこふゆひこ〉でオープンダイアローグ。
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